P-LAPの会について

妊娠中毒症と切迫早産の胎児(たいじ)と母体を守る会(P-LAPの会)設立の趣旨

本来健康なお腹(なか)の赤ちゃん(胎児)が、もしお母さんのストレスで子宮の中で悪い環境におかれて生まれると、早産で未熟児(2,500g未満)となる危険性があるばかりでなく、生まれた赤ちゃんは(新生児)将来様々な生活習慣病をはじめとする病気が増加することが知られています。(未熟児のバーカー仮説)

例えば、糖尿病8.2倍高脂血症18倍、冠動脈疾患(心筋梗塞など)3.6倍、うつ病(男性)3.0倍、正常に生まれた場合と比べて増加するという重要なデータがあります。小児の拡張型心筋症やうつの増加がいま社会問題となっています。このことも早産とその治療法に無関係ではないと考えられるのです。

妊娠中毒症(現在は妊娠《にんしん》高血圧症候群《こうけつあつしょうこうぐん》といいます)は妊婦さんの約7%~8%の割合で発症し、お母さんと赤ちゃんの死亡(周産期《しゅうさんき》死亡《しぼう》といい、赤ちゃんの生まれる前数週間から生まれた後一週間の間に死亡すること)の重大な原因であることがわかっています。

近年、早産は増加傾向にありますが、これらが原因で世界で1年間に生まれる新生児(しんせいじ)の約1%に当たる100万人もの赤ちゃんが生後1カ月以内に死亡していることが米国のNPO「マーチ・オブ・ダイムス」の調査で明らかになりました。(毎日新聞記事:平成21年10月5日付け)。

産科合併症で(お産に伴う病気)多く見られる妊娠高血圧症と早産の原因は現在まで十分には解明されていませんでした。そのためその治療は、原因を取り除くのではなく症状だけを緩和する方法(対症《たいしょう》療法《りょうほう》)しかないのが現状でした。

お母さんの体が母体ストレスを受けると、胎児はストレスから来る子宮の悪環境(必要な酸素が十分にいかない低酸素状態など)に対して、アンジオテンシンというペプチドホルモン(アミノ酸が数個から数10個結合した物質でホルモン作用を持つもので、血管を収縮させ血圧を上げる作用があります)を分泌します。
これは胎児がストレスに対してアンジオテンシンを出して自らの血圧を上げて低酸素状態から守っているのです。
アンジオテンシンは小さな物質(小分子のホルモン)のため、多すぎると胎盤を通って母体へ流入し、今度は母体の血圧を上昇させてしまいます。胎児が分泌する過剰のアンジオテンシンが母体へ流入し、妊娠高血圧症の原因の一端となると考えられます。
一方、母体の血圧を下げるために投与される降圧剤は小分子なので、やはり胎盤を通って、胎児が自らを守るため上げた血圧を今度は下げることになり、胎児の環境を悪化させます。

胎児はまた、このような悪環境から来るストレスのなかでは、バゾプレッシンというペプチドホルモン(尿を出すのを抑える作用、抗利尿作用や子宮を収縮させる作用があります)を分泌します。
早産の危険性が高まったとき(切迫早産といいます)、胎児はアンジオテンシンを分泌したときと同じようにストレス(低酸素状態)に対して、今度はバゾプレッシンというホルモンを出して自らを守ろうとします。
このバゾプレッシンというホルモンも小分子なので、胎盤を通って母体へ流入し、母体の子宮を収縮させ早産を促します。(胎児が分泌する過剰のバゾプレッシンが母体への流入し、切迫早産の原因の一端となると考えられます)
また胎児は正常な発育とともにオキシトシンというペプチドホルモンも分泌し、(子宮を強く収縮させる作用があります)このホルモンも小分子なので同じように母体へ流入して子宮を収縮させ、そのため陣痛(出産のときに繰り返す強い子宮収縮)がきて分娩(お産)となるのです。

従来これらの小分子のホルモンはヒトに投与した時のホルモン作用のみ注目されてきました。アンジオテンシンは血管の収縮作用、バゾプレッシンは抗利尿作用、オキシトシンは子宮収縮作用などです。
妊娠時には胎児はこれら小分子のホルモンを妊娠初期から分泌させ、胎児の成長因子として重要な働きをします。しかしながら、胎児が分泌するホルモンがストレス環境などで過剰に分泌されることになれば、胎盤を通って母体へ流入し、母体の生理(陣痛)や病態(妊娠高血圧症や切迫早産)を来たしていると考えられるのです。

このような胎児と母体の関係からみると、妊娠高血圧症や切迫早産の基本的な治療は、胎盤を通して母体へ流入した過剰なアンジオテンシン、バゾプレッシンやオキシトシンなどのホルモンを分解する物質(ホルモンなどのたんぱく質を分解する物質を酵素といいます)を母体に投与し、またその物質(酵素)は胎盤から胎児へ流入せず胎児へ影響を与えないものでなければなりません。
これが我々の提唱する胎盤酵素すなわち“アミノ・ペプチダーゼ(APAやP-LAP)”と呼ばれる物質で、過剰なホルモンを速やかに分解して母体の血圧を下げ、妊娠を延長して早産を防止する作用があることをすでに我々は明らかにしています。
すなわち、アンジオテンシン分解酵素(APA)には強力な降圧作用があり、バゾプレッシンとオキシトシン分解酵素(P-LAP)には妊娠延長作用があり切迫早産のみならず、陣痛のコントロールも可能なことが明らかになっています。(前臨床実験の結果より)。APAやP-LAPは分子が大きいので胎盤を通らず胎児へは流入しないのです。

現在妊娠高血圧症と早産に広く使用されている薬はもともと喘息治療薬として開発されたベーター2刺激剤(ベータ2という体内の受容体を刺激する)と硫酸マグネシウム(もともと痙攣を抑える薬)です。
硫酸マグネシウムは妊娠高血圧症の重症化したときに起こる子癇発作を(急激な血圧上昇による意識消失と痙攣発作)抑えるため1回だけの静脈注射で使用されるものですが、急激な血圧上昇を抑えるためその副作用を上回る治療の利点がある場合にやむを得なく妊娠高血圧症の母体に投与され、現在は長期持続投与される場合も多くなっています。
硫酸マグネシウムは、投与量が多くなれば心停止などの危険な副作用があり、胎児の脳室内出血や周産期死亡の増加の原因の一つであると指摘する報告もあります。

2009年5月ドイツ医薬品局は、切迫早産治療法としの硫酸マグネシウム投与の有効性に疑問があるとの公文書を出しています。動物実験では臨床用量の硫酸マグネシウムを妊娠自然発症高血圧ラット(SHR)に長期(妊娠後半期)投与すると、胎仔の心臓の栄養血管が極端に発達しなくなる(形成不全といいます)となることを我々は明らかにしました。

ベーター2刺激剤には多くの副作用があり、脈拍が高くなったり(頻脈)や血液中の糖分が上がったり(高血糖)、白血球減少などのほか重い副作用として肺がむくむ(肺浮腫)などがあります。
ベーター2刺激剤の長期投与は、母体の脈が乱れたり(不整脈)、心臓の動きが乱れたり(期外収縮)、心臓の血液が流れなくなる(心筋虚血)などの副作用があります。2011年2月、米国FDAは、テルブタリン(ベーター2刺激剤の一種)の経口および点滴(72時間以上)の投与を、重篤な母体心臓副作用の観点から禁止した例があります。
硫酸マグネシウムやベーター2刺激剤は小分子なので、簡単に胎盤を通って胎児の心臓へ行き、負荷を与えている可能性があります。ベーター2刺激剤の長期投与後の新生児に心臓の細胞が死ぬ(心筋壊死)報告があります。
近年小児拡張型心筋症のため、多額の費用を使い米国で心臓移植をする話題がしばしば新聞に掲載されます。これらの薬剤による子宮内被爆がその原因の一端である可能性は否定できないと考えられます。

ベーター2刺激剤の過量投与・長期投与が胎児に与える悪い影響はこれだけにとどまりません。アメリカの有名な大学病院ジョンズ・ホプキンズ産婦人科のヴィッター医師は、ベーター2刺激剤の過量投与は発達中の胎児の神経のバランスを狂わし、新生児は自閉症の症状が起こるリスクがあることを2009年に警告しています。(Witter FR)
自閉症は増加傾向にある現代病で自殺のリスク・ファクターです。とくに1998年頃にみられた青少年の自殺者の急激な増加は社会問題となっています。おおよそ20年前の1970年代から1980年代はベーター2刺激剤を切迫早産の治療に盛んに使用されていたことは事実です。
しかし、現時点では母体の生命を守るために、あるいは胎児の早産のリスクを回避するためには他の選択肢は少ないのが現状なのです。

重症の妊娠高血圧症には一般的な降圧剤は効果が低く、また副作用があるため胎児を未熟児の状態で(帝王切開で)母体から出すと(娩出といいます)妊娠高血圧症は回復することから、産科医は母体生命を優先し妊娠を中断させ、やむを得なく極小未熟児で出産させています。結果的に未熟児は増加の一途をたどっているのです。
現時点でベーター2刺激剤や硫酸マグネシウムを使わないで妊娠高血圧症を治療する方法はあるのでしょうか?

重症の妊娠高血圧症では、患者さんの尿中エストロゲン(女性ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が減少していることから、エストロゲンとプロゲステロンの併用が治療法として有効であったという古い論文があります。
この考え方をもとに新しい用量漸増療法を考案して、1970年当時、重症の妊娠高血圧症の患者さんを、降圧剤を一切使用せず治療したところ、症状(高血圧と浮腫)の改善とともに、妊娠期間の3週間の延長することができ、その結果、妊娠33週に1,750gの健康な男児を帝王切開で分娩させた症例があります。
重症の妊娠高血圧症にエストロゲンとプロゲステロン併用投与はこのように有効でした。
世界の産科医療ではまだ認められていないこの治療法を行うにあたり医療現場での理解が得られず困難を極めました。
1975年に再び重症の妊娠高血圧症の患者さんにこの治療法を行う機会があり、その結果は前述の症例と同様に症状(高血圧と浮腫)の改善とともに妊娠期間の3週間の延長、そして妊娠38週に1850gの健康な女児を帝王切開で分娩させました。
しかしながら、重症の妊娠高血圧症に対するエストロゲンとプロゲステロンの治療持続効果はある程度限界があると考えられ、妊娠の延長は長くて3週間でした。
この患者さんとそのお子さん(現在2児の母親です)は本会の会員として活動していただくことになりました。
この治療法の安全性は、このようにすでに3世代で明らかです。最近では(2011年2月)米国FDA(米国食品医薬品局)が早産の治療法として、プロゲステロンの使用を勧告しました。

以上のことから、私たちは、妊娠高血圧症と切迫早産の胎児を守り、より優れた薬剤が臨床現場で早く使えるように働きかけることを目的として以下の活動目標を掲げました。
妊娠高血圧症や切迫早産の患者さんやその家族が疾患について正しく理解できるように啓蒙活動を行います。
政府と製薬企業に対して、妊娠高血圧症と切迫早産治療薬の新しい治療薬として、“アミノ・ペプチダーゼ”の必要性を示し、早い開発・承認を要望していきます。これは日本発の画期的なバイオ医薬品となる可能性があります。
妊娠中毒症や切迫早産治療法として現在やむを得なく使用される硫酸マグネシウムとベーター2刺激剤に代わり、切迫早産治療薬プロゲステロンと、妊娠高血圧症治療薬エストロゲン・プロゲステロン併用療法の効果と安全性及びその限界についての理解を促進し、臨床現場での普及に努めます。
このような活動を通して、いま崩壊が叫ばれている産科医療と不足するNICUへの解決の道筋になれば幸いであると考えています。

1970年以来、産科医療が抱える2つの問題、即ち、妊娠高血圧症と切迫早産の解決が責務であると常に考え、疾患の原因と治療法の研究をしてきました。
これまで得られた研究成果を患者様に提供するには、正しい周産期医療を広く国民に向けて啓蒙し、社会の福祉増進に寄与することがこの特定非営利活動法人を設立する究極の目的です。

参考資料・参考文献

  • Barker DJ, Nutrition 1997;13:No.9:807-813
  • Hales CN, et,al. British Medical Bulletin 2001;60:5-20
  • Mizutani S et,al. Life Science 2011;88:17-23
  • Mittendorf R, Pryde PG. BJOG 2005;112:84-88
  • BfArM Pharmazeutische Unternehmer 2009.5.18
  • Ishii et al., Early Hum Dev 2009;85:589-594
  • FDA Drug Safety Communication 2011 Feb 17
  • Fletcher SE et al., Am J Obstet Gynecol 1991;165:1401-1404
  • ベータ2刺激剤の販売推移
  • 青少年(30歳未満)の年齢階級別の自殺者数・自殺死亡率の推移(厚生労働省「人口動態統計」)
  • Witter FR, et al., Am J Obstet Gynecol. 2009 Dec;201(6):553-9
  • 出生数と低出生体重児の年次推移(厚生労働省「人口動態統計」)
  • Smith GVS, Smith OW,. Clin Endocr 1941;1:77-84
  • Mizutani S et al., Ex.Clin. Endocrinol.Vol.92,No.2,1988:161-170
  • FDA New Drug Review 2011 Feb 7 Makena(hydroxyprogesterone caproate injection)

設立の経緯

  1. 1970年ころ、臨床の現場で、妊娠の生理・病態に対して以下の作業仮説を立てる
    1. 胎児は自ら分泌するペプチドホルモン作用で、急激に発育・成熟する。ペプチドホルモンとしては、オキシトシン、バゾプレッシン、アンジオテンシンなどである。これら生理活性ペプチドは、胎児側では、それぞれの生理作用のみならず、成長因子として働くが、母体側へ流出すれば、オキシトシンは子宮収縮、バゾプレッシンは抗利尿作用、アンジオテンシンは血管収縮作用を発揮する。
    2. したがって、胎盤にこれらペプチドホルモンを分解して、母体側へ流出を防止する胎児―母体間のバリアー(胎盤プロテアーゼ)が存在する。
    3. 生理的なそのバリアーの破綻がオキシトシンによる陣痛の開始であり、病態としての破綻がアンジオテンシンによる血圧上昇であり、バゾプレッシンによる子宮収縮-切迫早産である。
  2. 国立名古屋病院、静岡済世会病院、浜松医科大学、県西部浜松医療センター、名古屋臨港病院、名古屋大学で上記の作業仮説の基礎・臨床的な証明を行った。
  3. 2004年名古屋大学退官と同時に寄附講座プロテアーゼ臨床応用学グットマンを設立し研究を継続し、同時に名古屋駅前にダイヤビルレディースクリニックを開設して、産婦人科診療を継続する。
  4. 2009年寄附講座プロテアーゼ臨床応用学グットマンが終了
  5. 2010年医療法人三栄会・ダイヤビルレディースクリニックを設立する。
  6. 2011年になり、妊娠中毒症と早産に関する英文(Life Sciences 2011;88:17-23)と和文(日本医師会雑誌2010;139:660-663)論文が、ネット検索で上位に現れる事から、多くの妊娠中毒症と早産患者さんが、私の今までの取り組みに関心が集まっていると考えた。
  7. 2011年6月19日妊娠中毒症と切迫早産の胎児と母体を守る会の設立に向け、準備会が発足し、設立総会の準備に入る。
  8. 「NPO法人 妊娠中毒症と切迫早産の胎児と母体を守る会」が2012年2月8日に正式に認可される。

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